クラウド・コンピューティングは、完全に管理されたプラットフォーム、即時のスケー
リング、自動最適化、さらには自動ヒーリング操作、秒単位の課金、事前学習済み
の機械学習モデル、グローバルに分散したトランザクションデータストアなどを提
供できる素晴らしいリソースだ。また、クラウドは、組織がスピードの経済で競争す
る事を可能にする重要な技術でもある。それゆえに、多くのエンタープライズがそ
のような機能を利用したいと考えるのも不思議ではない。
しかし、エンタープライズ全体をクラウドに移行させることは、ボタンを押すだけで
済むような簡単なものではない。レガシー・アプリケーションを単にリフト& シフト
するだけでは、期待通りの効果は得られないだろうし、クラウドで最適に動作する
ようにアプリケーションのアーキテクチャを再設計するのは、膨大なコストがかか
る可能性がある。さらに、クラウド技術から十分な恩恵を得ようとする組織は、ビジ
ネスモデルや組織の変更も考慮する必要がある。したがって、エンタープライズは
単に「クラウドファースト!」と宣言するのではなく、より緻密な戦略をとる必要があ
る。
健全なクラウド戦略は、レシピ本や他の組織からコピーできるようなものではない。
出発点、目的、制約が異なれば、選択もトレードオフも異なる。そのため、あなたの
状況を分析し、選択肢を評価し、トレードオフを理解し、その選択を多くの人に明
確に伝えるための、実証済みの意思決定モデル一式が必要になる。
残念ながら、クラウド・コンピューティングに関する書籍の多くは、非常に高いレベ
ルに留まるか、特定のベンダーや製品に焦点を当てたものばかりだ。本書は、既存
の前提に疑問を投げかけ、技術に中立な意思決定モデルを確立し、クラウド・ジャ
ーニーについて考える新しい方法を提示することで、このギャップを埋めようとし
ている。